「絶対に止まってはいけない」エストニアの道路がロシアにはみ出していることが判明

エストニアとロシアの位置。青色: エストニア, 桃色: ロシア

ヨーロッパのバルト三国の一番北側にある国「エストニア」

南側は同じくバルト三国のラトビア、西側は大国のロシアと陸続きです。

かつてソ連領でしたが、ソ連崩壊により独立した国の 1 つです。

軍事同盟である NATO の加盟国でもあります。

道路がロシアにはみ出している?

エストニアの道路がロシアにはみ出している (?) 所を偶然見つけました!

※1

場所はエストニア南西部のロシアの国境線の所にあります。

OpenStreetMap という地図サイトの地図でこの赤丸の辺りを拡大します。

※1

さらに、この赤丸の辺りを拡大します。

※1

すると、エストニアの道路の 2 箇所がロシアの国境を超えてはみ出しているのが見つかります。

地図が正しければ、これは西側諸国の道路が東側諸国にはみ出す異常事態です。

では、Google ストリートビューで本当に「はみ出し」ているのか検証してみましょう。

問題の「はみ出し」の場所を検証する

問題の「はみ出し」の近くに「Sesniki」という集落があるようなので、ここにストリートビューを下ろします。

森に囲まれた緑豊かな集落ですね。

この集落から道路を走っていくと、英語を含む 3 カ国語で書かれた注意書きの看板を見つけました。

英語の部分を抜粋してみます。

YOU ARE ENTERING THE TERRITORY OF THE RUSSIAN FEDERATION!
STOPPING AND PASSEGE OF FOOT PROHIBITED WITH IN 1KM!

私は英語が苦手なので意味が頭に入ってきませんがそれっぽい日本語訳をしてみます。間違っているかもしれませんが。

あなたはロシアの領土に入ろうとしています!
この先 1 kmの区間では停止および徒歩での通過は禁止されています!

意味が頭に入りませんでしたがロシアの領土に向かって突き進んでいるのは確かみたいです。

自動車は通っていいということなのですかね。

とりあえす先に進んでいきます。

ロシアの国境に到達!

森と森の間に道のような空き地が突き抜けており、四角い標識が立っています。

ということはこれがロシアの国境線で間違いなさそうです。

何も遮るものがないですが、本当にこの先に進んで大丈夫なのですかね?

興味本位で進んでみます。

はみ出しゾーン 1 つ目に突入!

え............?

エストニアとロシアの国境、つまり NATO とその敵 (とされている) 国の国境上にバーチャルで立ててしまいました。

すごい...........

しかし、ストリートビューは続いており...

あっさりロシアに入ってしまいました。

え............?

ストリートビューの車もここを通ったということですね。他にも車が普通に走っています。

本当に大丈夫なのですかね? (繰り返し)

再び空き地が突き抜ける場所に来ました。ここにも同じ標識があります。

空き地の形から見れば、ここでロシアの国境線がL字型に曲がっているということですね。

エストニアの領土内に戻ると、すぐに「Lutepaa」という集落に入りました。

この集落には曲がり道が無さそうなので、例のはみ出しゾーンを通らないと来れないかもしれません。

はみ出しゾーン 2 つ目に突入!

2 つ目のはみ出しゾーンの手前に到達しました。

最初に見たのとほぼ同じ内容の注意書きの看板があります。

ここにも同じように細長い草地が突き抜けているので、その形から見ると、前の道路の長さ 50 m くらいだけロシアの領土ですね。

これは「魔の三角地帯」か...

こうして、無事に 2 つ目の「はみ出し」を通過できました。

ロシアの領土にはみ出しているのは本当!

saatse boot
ロシアにはみ出したエストニアの道路 File:Saatse kordoni piirilõik.jpg - Wikimedia Commons より

例のはみ出しに言及する日本のサイトはとても稀ですが、海外のサイトには言及されています。

Tips for hiking around near the Saatse Boot area

エストニアの道路がにロシアにはみ出しているのは本当です。

異常事態です。

例のはみ出しはブーツのような形があることから「サーツェの長靴」というようです。

ストリートビューにあるように、幅 1 km ほどの長靴の形の箇所と、道路が 30 m ほど V 字型の国境線の先端にかかる箇所の 2 つです。

つまり森を貫いていた細い草地が国境で、四角い標識はロシアの国境標識です。

上の写真に分かりやすく国境線を書くとこうなります。

はみ出しゾーンでは絶対に止まってはいけない

ここには特例の通行条件があるということで間違いないでしょう。

この英語のサイトに以下の言及があります。

In order for locals to be able to use the Värska-Saatse shortcut, the border officials agreed that the Saatse Boot may be passed through by vehicle (incl. bicycle), but stopping is prohibited. It is prohibited to step foot on the ground of foreign territory.

Please note that legally the Russian Federation has the right to stop a vehicle passing through their territory (以下略).

また、このサイトにはエストニア国境警備隊の HP のサーツェの長靴の解説ページのリンクもあります。

The Värska-Saatse road - Police and Border Guard Board

どうやら、一定の厳しい要件を満たせばロシアの領土であるサーツェの長靴を入国審査なしに通ることができるようです。

翻訳してまとめると、その要件はこうです。

私は英語が苦手なので、間違いあればご指摘下さい。

  • 徒歩での通行禁止
  • 自動車、バイク、自転車でのは通行は OK
  • 止まってはいけない
  • ロシアの国境警備隊に止まるように指示されたら従う必要あり
  • 事故などで万一停止せざるを得なくなった時は、すぐエストニアの国境警備隊に通報し、そこから動かず到着を待つこと

なるほど、厳しい通行条件を作る特例で対処しているのですね。

サーツェの長靴のストリートビューに人の姿は見えずのどかな自然の風景ばかりですが、エストニアとロシア両国の国境警備隊が厳重に監視しているとのことです。

なぜ道路がロシアにはみ出す事態になったのか

この道路はエストニアが独立する前のソビエト連邦 (ソ連) 時代から存在していたようです。

エストニアはソ連崩壊までソ連の共和国の 1 つというソ連の領土であり、独立国家ではありませんでした。

そのため、ソ連の共和国同士を跨いではみ出す道路を作っても問題がありませんでした。

国境線が飛び出した形になっている理由は、サーツェの長靴の土地にあった農場の所有者がソ連の共和国の 1 つだったロシアに属することを選択したからだと言われています。

しかし、ソ連崩壊でエストニアが独立した後、ロシアにはみ出している道路の存在に気づいてしまいました

そして、ロシアはすぐに上記の厳しい条件でこのはみ出し部分の通行を許可したという経緯です。

その後、エストニアはこの問題を解決するためロシアと交渉し、他のエストニアの領土を削ってはみ出し部分を埋める計画が出されました。

ですが、ロシア側から異論が出たため実現しませんでした。

このため、2024 年現在も「サーツェの長靴」は現存しているのです。

※1: OpenStreetMap の地図を加工

コメント (0件)